シアターグリーン学生芸術祭 vol.12 参加作品

家のカギ⑩

異常気象の災害によって機械が暴走し、機械社会が崩壊した世界で、大きな壁の内側に閉じこもってしまった国に反抗し、壁の外で生きるレジスタンスをめぐる話。

もしくは、いなくなってしまった兄の行方を捜す少女が、9年前にタイムスリップして過去に飛び、兄と出会い未来に帰るまでの話。

 

大人の言うことは勝手で、「兄は死んだ」「壁の外には出るな」とそればっかり。

大人への反発から壁の外に出てしまった真穂は、なぜか過去にタイムスリップしてしまう。

 

過去の壁の外で出会ったのは、聞いたこともないレジスタンスたちだった。

そのレジスタンスのリーダーは、写真で見ていた兄と瓜二つで……

  

ーー兄と妹の物語
もしくは抗う若者たちの物語ーー

 

高村の未発表作品『あれは、昨日の曇り空』を原作とし、高村作品の『インパクト』から100年以上未来の、同一世界。

 

シアターグリーン学生芸術祭 Vol.12 にて家のカギ10として上演。

【作・演出】

高村颯志(家のカギ)

 

【出演】

五十嵐恵美、金森悠介、高村颯志(以上、家のカギ)

伊庭嘉都志(劇団森)、遠藤清秀(劇団てあとろ50')

篠原加奈子、田代陽太郎(創像工房infrontof.)、田中花子(十六夜基地)

冨岡英香、浜田誠太郎(劇団24区)

廣瀬楽人、水野綾

村岡ゆりあ、山﨑聖香(劇団てあとろ50')

 

2018年8月24日(金)〜26日(日)

@シアターグリーン BASE THEATER

主宰・高村コメント

 

 実は、大学のサークルに所属していた頃僕が書いた作品で、インフルエンザ蔓延で上演できなかった長編作品がありました。当時は、サークルのための作品を書こうと本当に心身を削って書きました。台本は約100ページにも及びましたが、インフルエンザ蔓延がなくても悔いなくできていたかどうかは、今となっては分かりません。

 

そして、シアターグリーン学生芸術祭という、ユニットにとっての大勝負に際して、過去にやり遂げられなかったその大勝負が思い出されました。

ということで当時上演が叶わなかった作品のリメイクが決定したわけです。

当時のその作品は『あれは、昨日の曇り空』というタイトルで、フライヤーにも原作の欄に載せてもらいました。誰もそんなところ見ないですが、個人的なけじめでした。

 

その作品は、兄失踪の真実を知りたい小さな町で暮らす少女が、ひょんなことから過去にタイムスリップしてしまい、過去の人間に協力してもらいながら兄失踪の真実に触れる、という話でした。

目的のために手段を選ばず、周りに迷惑をかけた結果身内からも信頼を失い、町を追い出されることになった兄は、本当のところ妹のことを思って、町のことを思って行動を起こしていたことが分かり、兄が受け入れられる、というストーリーを、当時のサークルについての僕の想いと重ねていたことは今読んでも自分では強く感じます。

 

 

そして、当時できなかった想いとともに、今できることに感謝した上で、以前はできなかったけど今ならできる、成長、蓄積したことが自分たちにはあるはずだと考えた上で

ファンタジー、スペクタクル、という方面に大幅に設定を変更した結果、壁の中で暮らすというファンタジー要素と、レジスタンスという存在の登場につながるわけです。

 

『あれは、昨日の曇り空』では、過去の世界で出会う怜子という小さなスナックをやっている若い女性が、なぜか主人公に肩入れしてくれ、町について調べていくことになります。

その怜子は、自分も未来人だという嘘をついて主人公の信頼を得ますが、『シグリム』に登場するミスビジー(本名は怜子)は、実際に未来人という設定に変わっていたり、なんでも屋、花ちゃんと、数々の共通点はあるものの、それは『あれは、昨日の曇り空』『シグリム』両方に関わった人だけにしか分からないことです。

内容としても、過去は変えられないけど、語り継ぎ、胸に刻み、進むことはできるはずだ。そういった気持ちが結末には反映されています。

どうしてもそういうところを捨て切れませんでした。

もっとライトに、分かりやすく、まとめることもきっとできたと思います。でも、過去の清算という意味合いが自分の中で無視できなかった当時の僕は、賞レースに参加しているにもかかわらず、「こうでなくちゃいけないんだ」という意地にも近い強い意志を貫いてしまいました。

それでよかったんだと思う反面、どうしても勝ちにいけない僕の弱さとユニットの思いきれなさを決定づけてしまった公演だったとも思っています。

 

 

2時間半。

この作品の上演時間です。これが全てを物語っています。

この作品への思い入れ、設定過多、物語過多、キャスト一人一人への思い入れ、登場人物への思い入れ。そして捨てることが苦手すぎる僕の弱点。

 

ここから少しだけ、僕のドラマ恐怖症が進行していきます。

それはこれ以降の家のカギの作品を見れば分かりますが、コント、コメディ作品への偏り、ストーリー性の削減、劇場規模の縮小などなど、小心者になっていきます。

が、このコメントを書いている今(2020年4月末)は、また強く、ドラマ性のあるものこそ作りたいと思っています。もっともっと、人間味のある、心からでる言葉で、そんな作品が作れたらいいなと思っています。