家のカギ⑫

『脱獄5』

 

特別棟と呼ばれるヘンテコな雑居房に収容された沼田、鏑木、園山、難波の男女四人は

脱獄を図り役割分担をして計画を進めていた。

そしてついに決行当日、房からの脱出を担当していた沼田の計画は、スプーンでコンクリートの地面を掘るというあまりにも無謀な脱獄方法だった。

 

その上それを実行できるのは、鏑木が手配した電源設備ダウンのわずかな時間だけ。手段は他になし。

看守の目にも気を付けつつ、何度も挫折してようやく穴を掘ることができた4人だったが、園山の掘った穴は出口には繋がっておらず、それどころかその穴を辿って謎の囚人・服部が雑居房に現れてしまう。

 

なぜかその服部も仲間に加わり「脱獄5」となった彼らは、別の方法で脱獄を試みるのだった……

 

【作・演出】

高村颯志(家のカギ)

 

【出演】

〈Aチーム〉

飯嶋拓生(しもっかれ!) 池田知哉(feblabo) 大山莅人

五十嵐恵美(家のカギ) 君澤とおる 鈴木翔太 道上珠妃(はりねずみのパジャマ)

 

〈Bチーム〉

上原佑太(はりねずみのパジャマ) 大山莅人 高村颯志(家のカギ)

五十嵐恵美(家のカギ) 酒井まりあ(劇団森) 佐藤宏樹 田中花子(十六夜基地)

 

2019年6日5日(水)〜9日(日)

@新宿シアター・ミラクル

 

主宰・高村コメント

 

ワンシチュエーションコメディにはずっと憧れがあって、目の前の限られた空間で繰り広げられて、どんどん雪だるま式に物事が膨らんでいく様子がやっぱりどうしても好きです。

 

それとは別で、この公演があった2019年の前の年に、エンタメのストーリー物を作ることに対して疲れてしまった時があって、それ以降は誘われてコント調のものを書いていただけだったのですが、エンタメ調でコメディできたらなと思って描いた作品です。

 

アイデアの入り口はオープニングだったのですが

ちょうどこの公演の1年前くらいに、ILLUMINUS selectionで上演されていた、アガリスクエンターテイメントさんの代表作『ナイゲン』を浅草で観劇したときに、プロローグから本編に入る際のオープニング演出がかっこよすぎて、「え、いまから始まるのって文化祭の会議劇で、コメディだよね」と思って笑ってしまって、何かこれ使えないかと思って当日パンフレットにメモしたのがきっかけでした。

 

そこから、「脱獄モノで、かっこよくオープニングをキメたのに、全然脱獄できない」っていうのどうだろう、と着想していきました。

だから、何度挑戦しても穴が掘れない、掘れたと思ったら変なとこにつながっちゃって、その穴から知らん囚人が出てきちゃう、という導入なわけです。

 

そして僕は、初めて書いた演劇の作品が、囚人5人のワンシチュエーションコメディだったので、あれを元に前よりももっと面白いモノを立ち上げていこう!となっていったので、主人公の名前も当時の作品と同じ「沼田」でした。

 

 

脱獄したいのにできない。

その状況をコメディを保ちつつ維持するためのネタ探しに苦労しました。

初の長編コメディでしたが、ネタに関してはドラマも脈絡も少ないので、ここで語るのがすごく難しい…。

 

とにかく、「エンタメ」であり「脱獄モノ」であり「コメディ」である、というのが新しい挑戦でした。

そして、「エンタメ」の軸として、いつか何かが実ればと思って続けていることがあります。それは、作品と作品に関連性を持たせていくこと。

基本的には、同一の世界観、もしくは共通のキャラクターが登場する、といったようなものなのですが、今回の作品には、家のカギ『ラスト・スクランブル』に登場する「ムラサメ」という珍品収集家の影が見え隠れしていきます。

が、本人は登場せず、『ラスト・スクランブル』でムラサメが駆使した珍品や、それを分け与えた部下が出てきたり、前作でムラサメを追い詰めたイタリア国家警察の陰謀が見えてきたりと、結構てんこ盛りで。

ただ、今回の作品単体としても楽しめるよう、とにかくエンタメ的に終わらせるべく、エンディングムービーを用意しました。

お気付きの方も多いかと思いますが、「メタルギアソリッド3」というゲームのエンディングを丸々オマージュしています。

 

そんなふうに、思い切りやりたいことをやりたいという気持ちを一貫してやりましたが

家のカギとしては、企画に参加するわけではなく単独で大学施設以外劇場を借りるのは初めてで本当に本当にたくさんのトラブルもありました。

年上の役者さんをしっかり呼んだのも初めてでした。ご不便をおかけしつつも、団体や僕との相性だったり、演技の技術と面白さの違いだったり、いろいろなことを感じた公演でした。

「久しぶりに大きな公演を」と思って打ったこの公演で色々と嫌になってしまった僕は、短編やスタジオ公演など、メインストリームではない形態に傾いていくことになります。

 

これを書いている現在(2020年5月)も、当分はそういった形態の公演でやっていこうと思う自分がいますが、また必ずデカい作品を打ち出してやるぞという気持ちもまた湧き上がってきています。

コメディをやっていたらドラマをやりたくなって、ドラマをやったらコメディをやりたくなって、エンタメをやったら等身大をやりたくなって、長編をやったら短編がやりたくなって。

なんなら役者をやったら作演出をやりたくなるし、作演出をやったら役者をやりたくなるし。

 

きっと繰り返しなんですけど、繰り返して繰り返して、同じものに帰ってくるたびに確実にステップアップできてるように。大きな一歩ではなくても進んできぞという、覚悟をしています。

 

 

最後に、たくさん助けてくださった、新宿シアター・ミラクルさん、そして支配人の池田智哉さんありがとうございました。